この本は、著者:鈴木いづみさんが、私小説として23歳から29歳までの、人生を書いた書籍である。
「壮絶すぎる人生を送った彼女と言うしかない物語!」 1972年から1978年の人生をベースに書かれていた。
この本を読むきっかけは、実は「本牧ドール(高橋咲)」を読み終えた後で、繋がりを検索してたら偶然に発見したことだった。鈴木いずみさんは、36歳(1986年)の時に、自宅で首吊り自殺をする。その人生観というか生き様というか濃厚で常に自分を追い詰める姿が怖いくらい壮絶に見えてしまう。でも、鈴木いづみが聞いていたら「あんた馬鹿じゃない?」と一喝されると思う。
まずは、本人の生い立ちから
1949年 静岡県伊東市生まれ。
1967年 静岡県立伊東高等学校卒業後、キーパンチャーとして伊東市役所に勤務。その傍ら同人誌に参加していたが、17歳のとき書いた小説が『小説現代』新人賞の次点に入選したのを機に、1969年、退職して上京。ホステスやヌードモデル、ピンク女優を経る。
1970年 「声のない日々」で第30回文學界新人賞候補となり以後作家として活動する。
1973年 アルトサックス奏者阿部薫と結婚し一女をもうける。
1978年 阿部は急死。その後はSF雑誌を中心に小説を書いていたが、やがて健康を損ねて生活保護を受けるようになる。
1986年 自宅で首吊り自殺する。36歳没。
この二人を映画化した「エンドレス・ワルツ」がある。
鈴木いづみは、旦那の阿部薫との関係で足の小指を切断している。映画では、自分で切断したが、本では、阿部が逃げないように切断したともあり、事実は不明だ。
とにかく、1970年代は「愛」「音楽」「暴力」「薬物」などがキーワードとなって映ってしまう。もちろん、一切関係ない人も大勢いたと思うが全てにおいてストイックに生きる姿が印象的にみえる。
この本では、実名を伏せているが、あまりにも分かりやすいように書かれている。
・グリーングラス
・ジュン
・ジョエル
・フウちゃん
・ランディー
音楽で超有名人ばかりをモデルに小説を書いていると想像してしまう。
なぜ、この本を取り上げたかと言うと主人公の「いづみ」が「ジュエル」に恋して本牧に来ているからだ。
では、早速「本牧」が書かれている箇所を見てみます。
▽初めて、いづみがジョエルの家に行く時の内容
待ち合わせは、本郷町のバス停で、十一時。子供のころから知恵おくれが色こくのこっているわたしは、東横線ではなく、東海道線で横浜駅まできた。
▽そして、数年が経過して再び、いづみがジョエルの家に向かう時
【ジョエル】
「渋谷から東横線で桜木町までくるの。急行で三十五分」
「駅から電話して、タクシーで千円くらい。本牧二丁目のバス停っていえば、わかる」作詞家はいまだに本牧をうたう。このあたりはさびれてしまったのに。米軍ハウスはなくなり、植民地文化はうすめられて、日本全国にひろがった。都市計画によると、本牧は公園になるそうだ。たしかな話ではないが。本牧という街そのものがなくなってしまう。中華街とならんでヨコハマの二大特徴だったが。やがて、だれも特にかかなくなる。
鈴木いづみさんに、CHIBOWさんやクレイジーケンバンドを見て欲しかった・・・
ジョエルさんのフィクションでも、いづみさんとの事が書かれています。
「コートの下はレオタードだった…鈴木いづみさんのこと」
最初に鈴木いづみさんに会ったのは、前の奥さんから紹介したい子がいるけど、会ってくれるかって電話がかかってきてだったね。
次の日にバス停(たぶん本牧あたり)で待ってるって言われて、停留所まで行ったら、前の奥さんとふたりでいると思ったのに、いづみさんひとりで待ってたんだ。
その頃、俺は京浜東北線の山手駅の近くにアパートを借りていて、そこにふたりで行ったんだ。いづみさんはちょっとラリっていたよ。俺は珍しく真面目だったんだけどね。
その時、俺の部屋には親戚がたまたま泊まっていたんだけど、その日はいづみさんも泊まっていったんだ。それでね、次の日の朝ごはんにフレンチトーストを作ってあげた。それが最初の出会いなんだ。たぶんママリンゴの頃で40年くらい前の話だよ。
それからJLCをやっていた頃に電話があって、俺の家に遊びに来たのが2度目に会った時。その時もね、セイボーとマージャンやろうって話があって、セイボーが一緒にいたんだ。
いづみさんが来た時は、すごくラリっていたよ。俺も引くくらい。それに足の小指も旦那さんに切られたとかでびっくりしちゃったよ。俺も葉っぱ吸ってたけど、何か悲しくなっちゃうくらいさあ、ラリってたよ。その気持ちは分かるけどね。
その日はレコードを聴きたいっていうからレコードをかけて、2~3時間くらい聴いたら帰ってったんだ。その後は、とにかく悲しかったし、暗くなったよ。自分もラリったことあるから分かるけど、東京からよく来れたと思ったよ。帰りもすごく心配だったけど、マージャンで気を紛らしたよ! 点棒は数えられないけどね。
3度目にいづみさんと会ったのはPINK CLOUDの時で、楽屋に訪ねてきたんだ。いづみさんはコートを着てたんだけど、急にコートの前をパッと開けたんだ。そしたら、その下には水色のレオタードを着てたんだ。冬だったんだけど、どこかでダンスでも習ってきた帰りかと思ったよ。Charとジョニーもびっくりしていたと思うよ。楽屋でいづみさんと少し話したけど、何を話したかは覚えていない。そして、それがいづみさんに会った最後だった。
最後の方で、主人公のいづみは、後輩と二人の時に心の中でこう思う
彼女はたぶん、わたしよりも困難な時代を生きる。熱っぽさのない、のっぺりした時代を。
鈴木いづみよりも困難な時代という言葉に、ドキッとした。とても深い言葉である。
▽そして後輩にこう言う
「ジョエルは、あんなに絶望しているのに、美しい心で生きてる、ってこと。あきらめきってるからよ。わたしはまだまだ未練があったから-ってたって、彼についての未練じゃないのよ」
「別の人生があったのかもしれないっていう未練。で、会ってみてかえってそれはかきたてられたけど。だって、ぜんぜんふられてなんかいなかったんだもん。だけど、彼の生きかたを見て、べつのことに感動したの。くやんでもしかたがないことは、後悔するべきじゃない、って」
多分、これが鈴木いづみさんの本音であったと思う。
鈴木いづみさんの事は、ネットで沢山の情報があるので興味を持った人は、是非調べてみて下さい。「本牧ドール」の高橋咲さんとは、また違った1970年代の姿が見えてくることと思います。
心からご冥福をお祈りいたします。
目 次
1 ジス・バット・ガール
2 恋のあやつり人形
3 うわさのあの子
4 本牧ブルース
5 午前3時の……
6 サテンの夜
7 ギミ・リトル・サイン
8 ふたりのシーズン
9 泣かずにはいられない
10 愛なき世界
11 絶望の人生
12 キープ・ミー・ハンギング・オン
13 タイムマシンにおねがい
よく頑張った、という感じがして胸が痛く切なくなる…… 戸川 純
鈴木いづみ(1996)『ハートに火をつけて!誰が消す』 文遊社
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