本牧神社のお馬流し

横浜の歴史散歩
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お馬流し(おうまながし)(県民俗)は、横浜市中区本牧和田の本牧神社(ほんもくじんじゃ)に伝えられる。神社はもと十二天社といい、本牧十二天にあった。戦後米軍に接収されて本牧2丁目、さらに現在地へと移ったもので、跡地の前面海域は埋め立てられて昔日のおもかげはない。

お馬流しは、社伝によると1566(永禄9)年に始まったといわれ、もと6月15日に行われていた。現在は8月第1または第2日曜日である。お馬は、体長約45cmの茅で作った馬首亀体といわれる形で、頭に白幣を立て、口に稲穂をくわえ、大豆と小麦をきな粉でまぶした ”餌”と神酒を亀体部に置く。お馬は6体作られる。旧本牧6村より各1体とのことであろう。しかし、作るのは古来羽鳥家と決まっており、約1週間かかって作り上げられたお馬は、祭りの前日に神社へ運ばれる。この時、お馬は各々お馬板と称する厚板の上に置かれて、奉斎者の頭上から頭上へゆっくりと渡し継がれていく。お馬への畏敬を意味する所作であろう。当日は、船を型取った花自動車にお馬を乗せて町内を巡行し、本牧漁港に到着する。ここでもお馬を頭上に渡し継いでゆっくりとした歩調で進むが、神船の手前でにわかに駆け出し、お馬を船人に渡す。”せめ”と称し、祭りは一気に勇壮なものとなる。神船は2隻で、お馬は3体づつ左舷(さげん)に安置され、沖合4kmほどで海上に流すと船は一目散に帰還する。放流したお馬が戻ってくることは特にきらわれ、かつて関東大震災の年にはお馬が還流したといわれている。

お馬流しは、馬にあらゆる災厄(さいやく)を乗せて海に流し、無病息災や大漁・豊作を願う御霊信仰による行事である。社地移転や海域の埋め立て、時代の変遷を乗りこえて港都横浜の一角に伝わるこの古式神事は、まことに貴重な文化財といえよう。金沢区富岡町の八幡宮で行われる祇園舟(ぎおんぶね)は同系の神事である。

参考 神奈川県の歴史散歩 山川出版社 1996

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